• 手術の数値化・視覚化から、人をもっと深く知る。

ロボットが手術室に入る意味

  • 2022年4月1日

「手術をロボット化する意味はあるんですかね?」「なんだかロボットに手術されるのは怖いな。」「ロボットなんかやめた方がいい、できるわけない。」そんな声に囲まれながら、ロボットの研究に励んでいます。今日は、手術にロボットを使う、その意義について、良い点と困る点を挙げてみます。

https://www.medicaroid.com/product/hinotori/

https://www.intuitive.com/ja-jp

https://www.brainlab.com/video-player/dEQeslT

ロボットを手術室に導入して良い点:①外科医の負担が減る、②新たな手術を開発できる、③日本の経済界を活性化する。

ロボットを手術室に導入して困る点:①未知の問題点を解決しなくてはならない、②従来の手術法を伝え続ける必要がある、③医療経済を圧迫する可能性がある。

良い点、困る点をそれぞれ3つ挙げました。この3つ、番号ごとに良い点と困る点が対になっています。ロボット手術の光と影。説明してみます。

①外科医の負担が減る/未知の問題を解決しなくてはならない

現在使用されている外科ロボットでは、マスタースレーブ型ロボットで、外科医は指示を出すコンソールに座って、モニターを覗いて、手足を動かし、これをロボットアームに伝えて手術が実施されています。ロボットアームの動きは、コンピュータで制御され、手のブレを減らし、繊細な動きを実現します。ロボットに指示を出す外科医は一人です。患者さんから離れたところに座って操作を実施します。手術中の外科医の体力の消耗はロボットにより減らせます。1件の手術に関係する外科医の数も助手が不要となり減らせそうです。

ロボットを使った手術で合併症が発生した場合、その責任の所在はどこにあると考えるのが妥当でしょうか。ロボットに指示を出した外科医でしょうか、ロボットを製造している企業でしょうか、ロボットをメンテナンスしているエンジニアでしょうか。現在、まずは、外科医の責任と考えています。操作は全てコンピュータに記録されていますので、その記録を検証し、ロボットの不具合に問題があったと判定される場合には企業の責任が発生してくるという対応がとられます。

外科医の次世代をどう育成するか。これもロボットが登場するまではなかった問題です。手術がロボットの性能により、術者一人で完結できてしまう。これまでは必ず、助手が術者をアシストしました。内視鏡が登場してからは、スコピストとして術者が見たい場所を内視鏡で的確に映し出す第三の助手がいます。ロボットは術者が一人で4本のロボットアームを操作できます。次世代は、助手、内視鏡助手をこなすうちに自然に育ったのですが、ロボット時代はいきなり術者です。練習環境の整備が新たな仕事としてここに誕生していますが、まだその環境整備は道半ばです。

②新たな手術を開発できる/従来の手術法を伝え続ける必要がある

ロボットは進化しています。第一世代は触覚を持っていませんでした。第二世代ではコンソールへのパラレルリンク方式の採用などで触覚の再現が可能になっています。10年周期で次世代は登場します。次世代あるいはその先は車の自動運転のように、AIを活用した半自動そして全自動へと進むでしょう。6Gを活用した遠隔手術支援も一般化していくと思います。ロボットは位置情報を精密に管理できれば、ナノメートル単位(10のマイナス9乗!1ミリメートルの100万分の1!)で作業を実施できます。ですから、これまでは切って開かないとできなかったことが、針を刺すだけで、全身麻酔をかけることもなく処置できる方法を開発できる可能性があるのです。カプセルロボットの開発もどんどん進むでしょう。手術を処置に置き換えていくことができるのです。

地震が来て、停電。手術を直ちに終了し、退避する必要が発生。そんな時、ロボット手術を行なっていました。さて、どうしましょう。ロボット手術ができるくらいの病院であれば、非常電源が直ちに作動。その手術は続けられるかもしれません。しかし、楽観はできません。機械ですから、びくともせず、継続不能という事態を発生する可能性は否定できません。ロボットが機能しない時、その手術を続け、終了させるのは外科医の役割となります。いかにロボット手術が発展しても、危機管理の観点から、現在ある手術方法は伝承されるべきものなのです。古典への回帰。ロボットのない時代、内視鏡のない時代、顕微鏡のない時代、その手術が始まった時のやり方。全ては伝承されるべき技術です。

③日本の経済界を活性化する/医療経済を圧迫する

3つのリンクを貼り付けました。一番初めのHinotoriは国産です。神戸で開発されました。これに続いて数社のベンチャー企業がまもなく新製品を上市する予定です。これまでは、高額な医療機器のほとんどが欧州あるいは米国からの輸入でした。その一方で、輸入している製品の部品は国内の中小企業で提供しているという状況です。安くて良い部品を他国の製造会社に提供し、高額な製品を輸入して使う。この悪循環から、ロボット産業の発展は経済を好転させる可能性を持ちます。

外科治療の発展は、医療機器の発展が支えます。医療機器の発展は、医療材料の高額化をもたらします。保険点数にその高額化は反映され、日本の保険制度に負荷をかけます。医療が発展し、患者さんの負担が減る。医療が発展すると、医療費が高騰し、保険制度に負荷をかける。ジレンマです。このジレンマを解決する工業の発展、ここに日本の強みがあると思います。日本の工業を支える中小企業の力はすごいです。最近、日々、実感します。

顕微鏡を使った手術
内視鏡を使った手術

もう10年くらいしたら、「ロボットが手術室にいないと困るね。」「人が手術をしていたの?本当?それって怖くない?」「次はこんなロボットを作ろう!」、そんな時代が来るのでしょうか。わたしは10年後をそういう時代にしたいと思います。

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