外科医の技を言葉ではなく、数字に置き換える。それにより、教育効果が向上する、人からロボットに技を伝承できる。その試みは、この計測から始まりました。
記録によりますと2019年2月23日に自宅で実施していました。手術というのは、職人技です。外科医の感性に全ては委ねられています。わたしはその頃、大学院に入学し、1年が経とうとしていました。「医工連携」、医学と工学のコラボレーションは、医療機器の開発に今後欠かせないことがはっきりと認識できるようになっていました。内視鏡手術の指導を始めて5年経過していました。内視鏡手術の修得は、これまでの手術より時間がかかると言われ、内視鏡手術の普及の妨げになっていました。
「内視鏡手術の普及を進めるには、何が必要か?」
「医工連携で内視鏡手術に補うべきものを作り、修得期間を短縮し、その普及に貢献したい。」
日々そんなことを考え続けていました。そして、「手術のさまざまな要素を測定し、数字に置き換える。すると、数字を使って指導ができコミュニケーションが進む。すると、研修生の理解が進む。すると、修得にかかる時間が短縮される。すると、内視鏡手術の普及が進む。すると、より多くの患者さんの痛みの改善に内視鏡手術が貢献できる。」という考えに至りました。
「まず、計測できるのは、手術のどの場面か?」
せぼねの手術には、「到達路の軟部組織(皮膚、筋肉など)を展開し、骨を見えるようにする」「骨を削る」「病気を処置する」「到達路を元の状態に復元する」の4つの段階があります。この中で、内視鏡手術研修時に最も時間がかかり難しいのは、骨を正確に削る場面となります。削る場所を正確に評価するのが難しい。そして、安全に骨を削るコツには、昔から、「ドリルの腹を使う」「ドリルを止めない」「うまい術者はドリルの音を聞けばわかる」など、多くの言い伝えがある。いずれにしても、感覚的な指導に終始している現実に、現状での限界の理由がここにあると感じました。場所を数字で名付け、削り方を数字で伝え合うことはできないか。
「骨を削っているときの、ドリルの先にかかっている力は、センサーを使えば測れるのではないか?」
動力計というものが、金属切削の現場で使用されていることにたどり着き、静岡大学工学部のキャンパスで動力計を貸してくれるところを探しました。そこで、機械工学科の酒井克彦先生に巡りあいます。
https://sites.google.com/site/kikaikousaku/
「体重計に乗っけておおよその抵抗値は測れますよ」
酒井先生のそんな一言から、やってみたのです。確かに、測れました。