現在進行中の研究テーマ「手術の数値化」には、柱が2本あります。「骨研削の数値化」と「有限要素法による除圧効果の数値化」です。今回は、この2本柱のうち「骨研削の数値化」について簡単に紹介します。有限要素法はまた今度。
https://www.mdpi.com/1648-9144/57/1/71
まだ、日本語で発信していませんが、骨を削って、ドリルの先端にかかる動力を記録した、昨年、われわれが発表した論文です。静岡大学工学部の酒井先生と静先生が、金属加工における切削および研削の時に使う計測技術を応用したものです。計測のスケールが桁違いに小さい、削る素材が不均一な組成など大きな違いを克服しての成果です。
この報告では、顕微鏡で骨を削る時の環境を再現しました。2021年度は内視鏡で削る時の様子を再現しました。そして、ロボットアームを使っての計測も開始しました。現状評価から、開発のための評価へと基礎技術要素の研究は進みました。
手術さながらの環境を整えて、外科医が研修するセミナーでは、人から人へ技が言葉を介して伝わります。一人の指導者から複数の研修生に技は伝達されます。人からロボットに技を伝えるには数字を入力しPCを介して動きが伝えられます。人と人の間には共通認識があります。解剖学的な知識、他の手術方法で経験した危険回避の方法など、指導者と研修生にとって言わずもがなの専門家としての共通認識が、短時間での技術の伝達を可能にしています。
現時点では、ロボットにやってほしいこと、やってはいけないことを、現場で、1台に対して2〜3人がかりで、1工程当たり30分以上をかけて指示をします。この作業をティーチングと言います。与えられた仕事を寸分違わず実行できるのがロボットの強みです。外科医の場合は、教わった通りのことをすぐにそのままできるようにはなりません。それは、危険予知能力があるからです。どこまでやれるのか、経験を積んではじめて出来ることというのがありますので、ある技術を習得するまでにはどうしてもある程度の時間が必要になります。ロボットは間違った指示を出しても、危険回避を自己判断で実行してはくれません。
ロボットに仕事を数字で教える経験は、人に手術を指導する上でとても役に立ちます。数字を使って指導できるというのは、今後、わたしの強みになる気がします。